食と健康をコラムを通して考える

健康長寿に食べる知恵と秘訣

健康長寿に食べる知恵と秘訣

@ 慢性炎症が四大疾患を悪化 新着

最近の話題

  • 2009年のアメリカ医学会誌の記事に目が止まった。2型糖尿病の患者で、インシュリンなどの薬物治療により血糖値と糖化ヘモグロビン(HbA1c)を改善したが、炎症性の指標の血液中濃度は減少しなかったと発表された。2型糖尿病の薬物治療が成功しても、小さな血管の慢性の炎症が原因となる心臓病などは軽減できない場合があることを報じた。
    (参考; Pradhan AD et al: JAMA 2009, Sep.16, 302(11):1186-1194)
  • 高齢化にともなって、四大疾患(ガン、脳卒中、心筋梗塞、2型糖尿病)や、アルツハイマー病など、寿命と寝た切りに大きな影響を持つ慢性病と、肥満や歯周病などに起因する全身性の慢性炎症との関係がにわかに注目されてきた。
  • 炎症は感染や外傷などに対して健康な身体を防御する素早い反応の結果であり必要である。しかし、なぜ四大疾患などとの関係に注目が集まるのだろうか。

なぜ慢性化した炎症の因子が悪いのか?

  • 組織が損傷されるような感染や刺激、破壊が起こると保護回復の為に炎症反応がおこり、細胞から多種のサイトカインと呼ばれる因子が放出される。炎症特有の因子は体内を巡り、他の炎症の悪化の原因にもなることが解ってきた。
  • 例えば最近の話題では、歯肉炎、歯周病の炎症があると、糖尿病、心臓血管病などの全身疾患の悪化を招く。幾つかの研究で良いオーラルケアを行うとこれらの全身の慢性疾患の炎症を減らす事も知られている。
  • もう一つの厄介なことは、太りすぎで肥満細胞が過剰になると脂肪組織が活発に炎症性の有害なサイトカインとかホルモンを生産する事がしられている。この過剰な肥満細胞は長期間にわたり絶えまなくこの炎症を悪化させる因子を体内に送り続ける。

長寿を損なう健康リスク

  • 私どもの健康管理は、メタボリックシンドロームの指標を管理することで、うまく慢性病を先送りできると思っていた。そこにもう一つの因子の関わりが極めて重要であると言われている。それが慢性化した炎症因子の指標(マーカー)である。   これらの健康リスクを管理できる指標(マーカー)とは:
  • >> 炎症の指標:高感度C反応性タンパク質(Hs-CRP), インターロイキー
    6(IL-6)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)
    (註)医師は健康管理に炎症性の指標として通常CRP値を測定される

  • これに、従来からのメタボ指標を加えて日常から管理することができる。
  • どうやら、慢性の炎症に由来する因子が重大な生活習慣病の危険度を後押ししていることが明らかになってきた。
    (参考:American Institute for Cancer Research, News, Jan. 11, 2010)

慢性的な低い炎症のマーカーを減らすことはできるか?

その@ 
健康体重の維持に行う軽い運動、たとえばウオーキングは炎症の指標を低下させることが解っている。これは、胴回りの肥満で問題になる内蔵脂肪が全身性の炎症を刺激して悪化させていることからである。
そのA 
食品や食事のスタイルが全身性の炎症を減少させることができることが知られている。

食事又はサプリメントで全身性の慢性の炎症を軽減できるか?

  • 食物による慢性の炎症を軽減する方法については、幾つもの臨床的な介入研究がおこなわれている。
  • 明らかにされたことは、抗酸化作用のあるファイト・ケミカル(カロチノイドやフラボノイド)を含む食品、ビタミンCなど抗酸化作用があるビタミンを含む食品、そしてオメガー3脂肪酸(魚油のEPA,DHAなど)を多量に含む食品は有益な効果があることが解っている。
  • しかし、それぞれの単独の食物やサプリメントの効果には疑問も多いが、これらの要素をすべて満たしている伝統的な食事を守る人々に、著しく炎症性の指標が低いことが、欧州の各地での疫学的な研究から解ってきた。
  • 最近の研究で、肥満者に対して肥満治療の為の医療用超低カロリー食(VLCD,800kカロリー/日)を4週間始めた29人の患者の試験で、肥満の減少が炎症性のマーカーを減少させることを明らかにしている。
    (参考:Clement K. et al: Federation of American Societies for Experimental     Biology 2004、18:1657-1669)

地中海式の食物バランスと食べ方が解決の道

  • 最近最も確実であると証明されているのは地中海風の食事とその構成する食材である。そこで世界が注目した、フランス:リヨン市での大規模な臨床研究があり、この研究をフォローして、イタリア、スペイン、ギリシャで、大規模な地中海の食事習慣と通常食の対象者の比較研究がおこなわれた。
  • その結果は、地中海食の習慣を守る人が炎症性の指標(CRP, IL-6, TNN-αなど)の減少に有益であるとはっきりと結論がでた。
  • 地中海式の伝統的な食事の特徴とは:
    • 脂肪の重要な供給源にオリーブ油を多く使う
    • 野菜、果物を多量に摂取する
    • 豆類と全粒穀物を摂取する
    • 魚類を十分に摂取する
    • 赤ワインを適量に飲む
  • 地中海料理の特徴には、自然の素材を生かした料理、それは更に健康で単純な調味料として、基本にオリーブ油、レモン汁、少量の食塩、多種類のハーブ(多くはフレッシュで)をほとんどの料理の基本にしている。一般の欧米食のバター、食塩、砂糖を基本とするのと大きな違いがある。
  • 日本の伝統的な食事(魚、野菜、海草、大豆が豊富)とよく似ている、違いはオリーブ油の多量の摂取と、全粒穀物の摂取である。日本の伝統食も少し工夫して続ければ健康の利益には大きな意味がある。
    (参考:Leo Galland:Nutrition in Clinical Practice, Dec, 2010, 25(6), 634-640)

A カラダに良い油、悪い油

  • 三大栄養素の一つ、脂肪は動物性の食品と植物性の食品に由来する。その脂肪は長い間、肥満の要素として、どんな種類の油脂も過剰は禁物として食物からの摂取を少なくする指導が行き届いていた。
  • 栄養学の進歩により、その油脂の種類と食品についての広範囲な疫学研究や機能性研究が進んで「健康に必要な油」と「健康に悪い油」が解ってきた。
  • 食品の素材と油脂の性質のすべてを理解するのは複雑であるが、最近、大変に解りやすくて、信頼できる、実用的な分類が発表されているので紹介したい。
    (Harvard Medical School Special Health Report:「Living Better, Living Longer」, 2010 より引用)
  • (表)良い脂肪、 悪い脂肪

    脂肪のタイプ 主な供給源 室温の状態 コレステロール
    への影響
    単不飽和脂肪 オリーブとオリーブ油、カノーラ油、ピーナッツバター、アボカド。 液体(油) LDLを低下;
    HDLを上昇
    多価不飽和脂肪 コーン油、大豆油、ベニバナと綿実油、種子、豆類;脂肪質の魚 液体(油) LDLを低下;
    HDLを上昇
    飽和脂肪 全乳、バター、チーズ、赤身肉、ココナッツ油、パーム油 固体(脂肪) LDLも上昇
    HDLも上昇
    トランス脂肪 マーガリン;植物性ショートニング、水素添加した植物油、多くの揚げ菓子類 固体(油脂)か半固体 LDLを上昇
    HDLを低下

    ハーバード大学ガイドブック「健康と食物・飲料」ウィレット他著2005:より抜粋

  • LDL=低密度リポタンパク質とは:
    いわゆる悪玉コレステロールと呼ばれる。血液中を循環して血管壁の表面に蓄積する。正常値は血液中に(120mg/dl)以下とされている。

  • HLD=高密度リポタンパク質とは:
    いわゆる善玉コレステロールと呼ばれる。血液中を循環して血液内の有害なLDL
    (悪玉コレステロール)を捕まえて肝臓に運び、血液を浄化する。正常値は血液中に(40mg/dl)以上とされている。

  • 不飽和脂肪とは:
    オリーブ油の様な一価不飽和油と大豆油のような多価不飽和油には、多くの利益がある。 心臓関連の死亡と心臓発作の危険度が、不健康な飽和脂肪を5%だけを好ましい不飽和脂肪の同じ量と入れ替えると、およそ40%は削減できると見積もられた。

  • オメガ-3脂肪 (特にEPA, DHA)とは:
    油っぽい魚(例えばサーモン、イワシとマグロ)にある多価不飽和脂肪は、多くの研究から心臓発作、脳卒中、心臓突然死の危険性を減らすことが解っている。例えば、魚を1ヵ月につき数回食べると心臓病の危険度は 11%、1週につき2〜4回の時は23%、1週につき5回以上は38%と報告されている。

  • 飽和脂肪油
    対照的に、飽和脂肪は不健康なLDLコレステロールのあなたの血中濃度を押し上げて、アテローム性動脈硬化症と呼ぶ動脈を詰まらせて、心臓病の危険度を上昇する。
    動物性脂肪と酪農品は、飽和脂肪の源である; また、ココナッツオイル、パーム油、パームナッツ油とカカオバターのような植物性脂肪も同様である。酪農製品中(例えばバターと全乳)には飽和脂肪類(表を参照)にある飽和脂肪は、LDLに最も強い影響を及ぼす。牛肉脂肪はLDLに影響の影響を及ぼす。

  • トランス型脂肪
    部分的に水素添加した油、または、水素添加した油で知られ、これらの架橋安定化脂肪は好ましいHDLコレステロールを抑制し、その一方で、LDL、トリグリセリドとリポタンパク質Aと呼ばれている物質の血中濃度を上げる。これらの変化の全ては、心臓病との関連がある。そして、不健康なトランス脂肪の2%をより好ましい不飽和脂肪の同一量と入れ替えることは、50%以上の危険率を低下することができた。 更にトランス脂肪は、血小板 ― それが凝固する原因になる血液中の小粒子 ― を普通であるより粘着性にする、そしてそれはおそらく心臓発作または脳卒中の一因となる。 すでに日本でもトランス脂肪を制限し、また多くの食品会社は製品をより好ましい脂肪に自発的に代えてきた。

  • 「脂肪を賢く選ぶ」
    1. どんな場合でも、一価不飽和油そして多価不飽和油を使うこと。 トランス脂肪は完全にを避けうこと。
    2. 飽和脂肪を1日のカロリーの7%未満に制限し、総脂肪を1日のカロリーの20%〜30%までに制限すること。
    3. もし冠状動脈疾患にかかってない場合、米国心臓協会では週2回オメガ-3脂肪酸が豊富な食品(例えばサーモン、マスまたはサバ)を食べることを勧めている。

B 大豆イソフラボンの効果は腸内細菌の働き次第

  • 豆腐、納豆、豆乳など大豆食品を良く食べる日本人や東洋人は欧米人に比べて乳がん、前立腺がんの発生率が少ないことは多数の住民疫学研究の結果からよく知られてきた。
  • そして、大豆中のイソフラボン(ダイゼイン、ゲニスタイン)が有効成分として知られている。中でも、ダイゼインは体内で腸内細菌により「エクオール」という有効な成分か、もしくは(O−DMA)と呼ばれる効果のない物質に変換されることは、日本で研究され、すでに良く知られていることである。
    (参考:渡邊昌著、栄養学原論、南江堂、2009年)
  • 最近、米国では、米国立衛生研究所(NIH)人間のの主導で、微生物叢(腸内細菌、口腔内細菌など全身の微生物)が健康と病気に大きく関与することから、その微生物群の全ゲノムを解析するプロジェクトが進行している。
    (参考:Human Microbiome Project, NIH)
  • そのプロジェクトに関与して、この大豆の乳がん予防効果と腸内微生物による「エクオール」の産生について話題になっている。それは、ガン予防に直接関与する腸内微生物の働きが鮮明になってきたからだ。
  • そして、ダイゼインは、人類の人口の30―50%だけがエクオールを生産し、80−90%は効果のないO−DMAを生産するからだ。この結果もまだ論議があるが、アジア人には腸内菌によるエクオール生産者が多いとされている。
  • また、乳がんや前立腺がんの発病と大豆食品による予防効果には、日本、中国と、欧米との間での効果の温度差が大きいが、直接にエクオールのサプリメントでの人への介入試験など、議論が広がりそうである。
    (参考:Lampe JW, Emerging research on equol and cancer.J Nutr 2010, 140(7):1369s-)

C 『最近の話題』体重減量ダイエットの効果を比較

ローカーボ(低炭水化物)ダイエットの流行と衰退

  • 1960年代に、ロバート・アトキンス博士によって、肥満の予防と治療に最適な低炭水化物ダイエットとして有名なアトキンス・ダイエットが発表され、肥満に悩む米国では多くの医学的な支持をえて社会に広がった。
  • 幾つかの管理された臨床試験の結果は、短期間での体重の減量に効果があることがわかり、瞬く間にアメリカ社会で一般的になるのも早かった。 そしてマスコミの話題にのり、健康食品の業界には「ロー・カーボ・ダイエットのブームがやってきた。
  • 博士の主張は、肥満の主な原因が、精製した炭水化物、特に砂糖、小麦粉、果糖ブドウ糖液糖(コーンシロップ由来)の食べ過ぎにあり、食事からこれら排除する低炭水化物食からに変えることから始める。 食事の指導は、肉類、魚介類による蛋白質を十分に加えた食事に切り替えた食事でスタートする。
  • 後になり、極端に炭水化物を制限した高脂肪、低蛋白質食には、医学会の中に多くの反論がおこり、ブームも静まっていった。
  • この場合、脂肪が優先的に燃焼する代謝系の変化で、体内の脂肪を優先的に分解し、基礎インシュリンの濃度を減少させる利点がある。 炭水化物を制限することで、脂肪が優先的にエネルギーに変えられるため、代謝が変化する結果、ビタミンやカルシュームなどのミネラルのバランスが変化し、その補完にはサプリメントを上手に使う必要もでてくる。
  • 極端には多量の蛋白質と共に悪玉の飽和脂肪の多い肉類や乳製品でカロリーを補い、健康維持に必要なマクロ栄養素(炭水化物、脂肪、蛋白質)のバランスが大きく崩れることは長期にわたると健康上の不安が残る。
  • 何よりも長続きしない原因の大きな1つは、食物選択の制限にあり、炭水化物は味覚や瞬間的な活力の不足から日常の食生活に不満が生まれることにある。

体重減量ダイエットの人気の結果は

    (参考;V.S.Malik, F.B.Hu: Popular weight-loss diets: from evidence to practice, Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine(2007), 4:34-41 )

  • 体重減量ダイエットは、個人のニーズと同時に大きな社会的な要請でもある。そして、体重減量ダイエットが減量効果以外に、健康管理にどのような影響があるか、誰もが知りたがることだ。
  • マリック博士らのハーバーと大学のメンバーは、伝統的な「低脂肪ダイエット」と人気の「ローカーボダイエット」、そして健康食の基本として食事指導の基本になっている「地中海ダイエット」について、1965年以後の医学的な研究報告をすべて検索し、その内容を調査比較して報告された。
  • 要点(1)

    多数の減量ダイエットが流行するが、長期間での効果、安全性、心臓血管病の危険度を改善する要素のわかっているのは極く僅かである。

  • 要点(2)

    これまで一般的によく指導された全脂肪を抑制する方法の効果は取るに足りないで、心臓血管病の危険度を減らす利益は認められない。

  • 要点(3)

    ローカーボ(低炭水化物)ダイエットは、一時的には低脂肪食よりも短期の減量の効果があるが、長期な研究の結果はわからない。

  • 要点(4)

    伝統的な地中海食は心臓血管病の危険因子を改善、さらに慢性病の危険度を減少するが、長期の体重管理の結果は判断するには不十分である。

  • そして、現在の食事が肥満を誘うような環境の中にあって、全身の健康を維持する為には特定の食事指導は難しく、長期に継続できる食事の指導を考える必要を強調している。

図)各国の三大栄養素の摂取基準と話題のダイエットの摂取量比較(単位:摂取カロリー%、数値:摂取基準の中間値)

出典:日本(厚生労働省平成16年食事摂取基準)
米国(USDA 2005 Dietary Guideline)
クレタ島(A.Trichopoulou et al, 2005)
ウイレット(W.C.Willett, 2001)
アトキンス(V.S.Malik et al, 2007)

肥満は脂肪と炭水化物の食べすぎだけ?

(参考:S.B.Roberts, M.B.Heyman: Dietary composition and Obesity:Do we Need to Look beyond Dietary Fats?, Nour Nutri 2000, 130,267S)

  • 栄養学上の伝統的な減量ダイエットの食事の推奨量は、全脂肪分を制限して炭水化物(全粒の穀物に由来する複合糖質)を多く含んでカロリー制限した食事とされている。
    この食事指導の基本には、食事中の全脂肪分の取りすぎが肥満の第一の要因であると考えられたことから始まった。そして店頭で見かける多くのダイエット食品が開発さ れてきた。
  • 少し前になるが、1999年に、アメリカのワシントンで肥満への科学者の挑戦を掻き立てる興味ある会合が開かれている。 アメリカ栄養科学会が主催した『食事の組成と肥満:食事の脂肪分の他の要素を調べる必要があるか?』である。
  • このシンポジュームは、肥満の科学の第一線の科学者が、
    「なぜ全脂肪の摂取量を減らしても肥満者の増加が流行するか」
    「食事の全カロリー数の増加はどのように肥満と関係があるか?」
    「食物繊維の摂取量が減ったことが肥満の増加と関係はないか?」
    「炭水化物の血糖値指数(グリセミック指数)が関係がある?」
    「食べすぎの要因に食事の美味しさと料理の多様性が関係する?」
  • この会で、肥満が食べ過ぎにより、その食べすぎは単に脂肪だけに原因があるのでなく、食事の複数の要因でひきおこされることは明らかになった。
  • そして、特に外食によって、多くの調味料(主に全脂肪バター、食塩、果糖ブドウ糖液糖、さらにはトランス脂肪酸など)により、ますます美味となり、しかも1食分の量が増える傾向があって、人々は高カロリー食に誘い込まれてきた。
  • このような肥満誘導の環境からどのように食事指導を進めるか、また肥満傾向の人たちに減量ダイエットを指導するか、科学者の間での発想の転換が始まっている。